1.水銀に関する水俣条約の発効とその施行
「水銀に関する水俣条約」が平成25年10月に採択され、平成29年5月18日付けの締約国数が我国を含めて規定発効要件の50か国に到達したことから、同年8月16日に発効、同日施行されました。本条約では、水俣病の教訓を踏まえて水銀鉱山からの一次産出、水銀の輸入及び小規模金発掘等の規制、水銀添加製品の製造・輸出入の規制、大気・水・土壌への排出について利用可能な最良の技術や環境のための最良の慣行(BAT/BEP※)等を基にした排出削減対策の推進、バーゼル条約と整合性を図った適正処分の推進、途上国の能力開発や設備投資等を支援する資金メカニズムの創設等が示されたものとなっています。
※1:BAT(Best Available Technology)とはコスト、効果の観点から利用可能な最良の技術(例えば脱硫装置等)、BEP(Best Environmental Practice)とは環境に最良の慣行(水銀の排出を最小化する工程管理)をいいます。
日本では同条約の施行をうけて、その他の必要な措置を講ずるための「水銀による環境の汚染の防止に関する法律」の制定及び「大気汚染防止法」や「廃棄物処理法政省令」の改正が行われました。

2.水銀による環境の汚染の防止に関する法律(水銀汚染防止法 平成27年法律第42号)
水銀汚染防止法では、特定水銀使用製品の製造等の禁止と情報提供、水銀等の環境上適正な貯蔵のための措置、水銀含有再生資源の環境上適正な管理の措置等が定められています。
(1)特定水銀使用製品の製造等の規制
水銀含有電池(酸化銀電池(1%以上)、空気亜鉛電池(2%以上)、アルカリマンガン電池等)、スイッチ及びリレー、蛍光ランプ(CFLs(30W以下:5mg超)、LFLs(60W未満:5mg超、40W以下:10mg超)、CCFL及びEEFL(長500mm以下:3.5mg超、長500mm超1,500mm以下:5mg超、長1,500mm超:13mg超))、高圧水銀蒸気ランプ(HPMV)、化粧品、動植物またはウイルスの防除に用いられる薬剤(マーキュロクロム液及びそれ以外の薬剤)、非電気式計測器(気圧計、温度計、湿度計、圧力計、血圧計)は、平成30年1月1日または平成32年12月31日から原則、使用が禁止となります。
(2)水銀使用製品に関する情報提供
消費者が水銀使用製品の分別・排出を適正に行えるように水銀使用製品の製造・輸入業者は、水銀使用製品への水銀等の使用に関する表示等の情報を提供するよう努めることとされています。
(3)水銀等の環境上適正な貯蔵のための措置
特定の水銀等の貯蔵者は、その貯蔵量にかかわらず貯蔵する水銀等による環境汚染を防止するために適正な措置を講ずる必要があることから、水銀等の種類ごとにその年度において事業所ごとに貯蔵した水銀の量が30kg以上である場合に、貯蔵の状況に関する報告を主務大臣(所管省庁)に翌年度の6月末までに提出することとなりました。
(4)水銀含有再生資源の環境上適正な管理のための措置
水銀含有再生資源の管理者は、水銀含有再生資源が飛散・流出しないようにする等の適正な措置を講じる必要があります。また、その年度において事業所ごとに水銀含有再生資源の管理を行った場合、種類ごとに管理の状況に関する報告書を、主務大臣(所管省庁)に翌年度の6月末までに提出することとなりました。
3.大気汚染防止法の改正内容
水銀排出施設(石炭火力発電所、産業用石炭燃焼ボイラー、非鉄金属(銅、鉛、亜鉛、工業金)製造施設、廃棄物焼却設備、セメントクリンカー製造施設)については、設置・構造等の変更の事前届出が必要となるほか、排出基準の遵守、排出ガス中水銀濃度の測定・結果の記録・保存が求められるようになりました。また、要排出抑制施設(製銑用焼結炉、製鋼用電気炉)については、自主的取組として自ら遵守すべき基準の作成、水銀濃度の測定・記録・保存、その実施状況及び評価の公表が求められます。(平成30年4月1日施行)
(1)水銀排出施設の種類と規模、排出基準
水俣条約の 付属書D |
大気汚染防止法の 水銀排出施設 |
施設の規模・要件 |
排出基準 (μg/Nm3) |
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新設施設 |
既存施設 |
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石炭火力発電所 産業用石炭燃焼ボイラー |
石炭専焼ボイラー 大型石炭混焼ボイラー |
● 伝熱面積10㎡以上 ● 燃焼能力50L/時以上 |
8 |
10 |
|
小型石炭混焼ボイラー |
10 |
15 |
|||
非鉄金属(銅、鉛、亜鉛及び工業金)製造に用いられる精錬及び焙焼の工程 |
一次施設 |
銅または工業金 |
金属の精錬の用に供する焙焼炉、焼結炉(ペレット焼成炉を含む)及び煆焼炉/金属の精錬の用に供する溶鉱炉(溶鉱用反射炉を含む)、転炉及び平炉: ● 原料処理能力1t/時以上 金属の精製の用に供する溶解炉(こしき炉を除く): ● 火格子面積1㎡以上 ● 羽口面断面積0.5㎡以上 ● 燃焼能力50L/時以上 ● 変圧器定格容量200kVA以上 銅、鉛または亜鉛の精錬の用に供する焙焼炉、焼結炉(ペレット焼成炉を含む)、溶鉱炉(溶鉱用反射炉を含む)、転炉、溶解炉及び乾燥炉: ● 原料処理能力0.5t/時以上 ● 火格子面積0.5㎡以上 ● 羽口面断面積0.2㎡以上 ● 燃焼能力20L/時以上 鉛の二次精錬の用に供する溶解炉: ● 燃焼能力10L/時以上 ● 変圧器定格容量40kVA以上 亜鉛の回収の用に供する焙焼炉、焼結炉、溶鉱炉、溶解炉及び乾燥炉: ● 原料処理能力0.5t/時以上 |
15 |
30 |
鉛または亜鉛 |
30 |
50 |
|||
二次施設 |
銅、鉛または亜鉛 |
100 |
400 |
||
工業金 |
30 |
50 |
|||
廃棄物の焼却設備 |
廃棄物焼却炉(一般廃棄物、産業廃棄物、下水汚泥焼却炉) |
● 火格子面積2㎡以上 ● 焼却能力200kg/時以上 |
30 |
50 |
|
水銀含有汚泥等の焼却炉等 |
水銀回収義務付け産業廃棄物または水銀含有再生資源を取り扱う施設(加熱工程を含む施設に限る) (施設規模による裾切りはなし) |
50 |
100 |
||
セメントクリンカーの製造設備 |
セメントの製造の用に供する焼成炉 |
● 火格子面積1㎡以上 ● 燃焼能力50L/時以上 ● 変圧器の定格容量200kVA以上 |
70 |
80 |
(2)水銀排出施設の設置・構造変更の届出
根拠条文 |
届出が必要な時 |
届出時期 |
届出書 |
法第18条の23 |
水銀排出施設を設置しようとするとき |
工事着手の 60日前まで |
水銀排出施設設置 (使用、変更)届出書 【様式第3の5】 |
法第18条の24 |
法施行時に、既に水銀排出施設に該当するものを設置しているとき |
法施行から 30日以内 |
|
法第18条の25 |
以下の変更をしようとするとき ・水銀排出施設の構造 ・水銀排出施設の使用方法 ・水銀等の処理方法 |
工事着手の 60日前まで |
|
法第18条の31 第2項 |
以下の変更があったとき ・届出者の氏名、名称、住所、法人代表者氏名 ・工場、事業場の名称又は所在地 |
事由発生から30日以内 |
氏名等変更届出書 【様式第4】 |
水銀排出施設の使用を廃止したとき |
使用廃止届出書 【様式第5】 |
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水銀排出施設を譲り受け・借り受けたとき |
承継届出書 【様式第6】 |
(3)排出ガス中の水銀測定法 (環境省告示第94号)
測定対象・方式 |
○ 全水銀(ガス状水銀 及び 粒子状水銀)を対象として、バッチ測定で行います。 ※連続測定は現在の測定機では粒子状水銀が測定対象外である等の難点があります。 |
試料採取・分析方法 |
○ ガス状水銀(湿式吸収-還元気化原子吸光分析法) JIS K0222(排ガス中の水銀分析方法)を基本とし、排出ガス吸引量を100L程度に、SO₂濃度の高い排出ガスや有機物の多い排出ガスは、硝酸(5%)過酸化水素水(10%)混合溶液等による洗浄に変更。 ○ 粒子状水銀(湿式酸分解法‐還元気化‐原子吸光法又は加熱気化‐原子吸光法) JIS Z8808(排ガス中のダスト濃度の測定方法)に準拠して、1,000L程度以上採取。 |
測定頻度 |
○ 排出ガス量が4万Nm3/時以上の施設:4カ月を超えない作業期間ごとに1回以上 ○ 排出ガス量が4万Nm3/時未満の施設:6カ月を超えない作業期間ごとに1回以上 ○ 専ら銅、鉛、亜鉛の硫化鉱を原料とする乾燥炉、専ら廃鉛蓄電池又は廃はんだを原料とする溶解炉:年1回以上 |
測定結果の確認方法 |
○ 測定結果は平常時における平均的な排出状況を捉えたものか適切に確認する必要があります。 <排出基準を上回る濃度が検出された場合> 水銀排出施設の稼働条件を一定に保った上で、速やかに3回以上の再測定(試料採取を含む)を実施し、初回の測定結果を含めた計4回以上の測定結果のうち、最大値及び最小値を除くすべての測定結果の平均値により評価します。 ※再測定は、初回の測定結果が排出基準の1.5倍を超過していたときは、初回測定結果が得られた後から30日以内、それ以外の場合は60日以内に実施して結果を得てください。 ※測定結果は全て記録・保管しておいてください(再測定を実施した場合は、最大値及び最小値も含む)。 ※再測定後の評価でも排出基準値を上回る場合は、関係自治体に連絡するとともに、原因究明を行い、再発防止措置をとってください。 |
4.廃棄物処理法政省令の改正内容
廃水銀等が特別管理廃棄物に指定され、密閉容器に入れて運搬すること、硫化・固型化してから埋立処分すること等の処理基準が強化されました。また、水銀使用製品産業廃棄物及び水銀含有ばいじん等については、水銀使用製品産業廃棄物について破砕することのないように運搬すること、相当の割合以上に水銀等を含むものは水銀を回収してから処分すること等の処理基準が追加されました。
(1)廃水銀の処理基準等
家庭から排出された蛍光管、ボタン電池、水銀体温計、水銀温度計、水銀血圧計等の水銀使用製品(水銀またはその化合物が使用されている製品)が一般廃棄物となったものから回収した水銀が廃棄物となったものは、特別管理一般廃棄物に指定(平成28年4月1日施行)され、それら対象物について、新たに次のような措置(処理基準等)が追加されました。
①収集・運搬、積替え、保管に関する措置(平成28年4月1日施行)、②硫化・固形化等中間処理基準(平成29年10月1日施行)、③水銀処理物やそれ以外の特別管理一般廃棄物の中間処理物としての位置づけ(平成29年10月日施行)、④最終処分基準(平成29年10月1日施行)、⑤最終処分場の維持管理基準(平成29年10月施行)、⑥最終処分場の廃止基準(平成29年10月1日施行)、⑦形質変更の制限(平成29年10月1日施行)。
(2)廃水銀等の処理基準等
特定施設において生じた廃水銀または廃水銀化合物(水銀使用製品が産業廃棄物となったものに封入された廃水銀及び廃水銀等を除く)、水銀もしくはその化合物が含まれているもの(一般廃棄物を除く)または水銀使用製品が産業廃棄物となったものから回収した廃水銀は、特別管理一般廃棄物に指定(平成28年4月1日施行)され、それら対象物について、新たに次のような措置(処理基準等)が追加されました。
①排出事業者による保管(平成28年4月1日施行)、②収集・運搬、積替え、保管に関する措置(平成28年4月1日施行)、③硫化や固形化等中間処理基準(平成29年10月日施行)、④中間処理物の位置づけ(平成29年10月1日施行)、⑤廃水銀等硫化施設の許可制(平成29年10月1日施行)、⑥最終処分場基準(平成29年10月1日施行)、⑦最終処分場の維持管理基準(平成29年10月施行)、⑧最終処分場の廃止基準(平成29年10月1日施行)、⑦形質変更の制限(平成29年10月1日施行)。
(3)水銀含有ばいじん等の処理基準等
ばいじん、燃え殻、汚泥または鉱さいのうち、水銀(水銀化合物に含まれる水銀を含む)を15mg/kgを超えて含有するものと、廃酸または廃アルカリのうち水銀(水銀化合物に含まれる水銀を含む。)を15mg/Lを超えて含有するものについて、新たに次のような措置(処理基準等)が追加されました。
①排出事業者による保管(平成29年10月1日施行)、②排出事業者による帳簿の作成、保存(平成29年10月1日施行)、③収集・運搬・処分の委託契約書への記載(平成29年10月1日)、④排出事業者によるマニフェストの交付(平成29年10月1日施行)、⑤収集・運搬、積替え、保管に関する措置(平成29年10月1日施行)、⑥処分・再生を行う場合の中間処理基準(平成29年10月日施行)、⑦処分・再生前の水銀回収(平成29年10月1日施行)、⑧最終処分場基準(平成29年10月1日施行)、⑨最終処分場の維持管理基準(平成29年10月施行)。
(4)水銀使用製品産業廃棄物の処理基準等
次に示す水銀使用製品が産業廃棄物となったものは、新たな措置(処理基準等)が追加されました。
〇「新用途水銀使用製品の製造等に関する命令(平成27年内閣府等省令第2号)」第2条第1号又は第3号に該当する水銀使用製品(水銀電池、スイッチ及びリレー、蛍光ランプ等)
〇上記製品を材料または部品として用いて製造される組込製品(補聴器、朱肉、水銀電池及び顔料等)
〇上記のほか、水銀またはその化合物を使用していることが表示されている製品(日本語による表記「水銀」、英語による表記「Mercury」、化学記号「Hg」、電機電子機器に含有される化学物質の表示J-Moss水銀含有グリーンマーク等)
①排出事業者による保管(平成29年10月1日施行)、②排出事業者による帳簿の作成、保存(平成29年10月1日施行)、③収集・運搬・処分の委託契約書への記載(平成29年10月1日)、④排出事業者によるマニフェストの交付(平成29年10月1日施行)、⑤収集・運搬、積替え、保管に関する措置(平成29年10月1日施行)、⑥処分・再生を行う場合の中間処理基準(平成29年10月日施行)、⑦処分・再生前の水銀回収(平成29年10月1日施行)、⑧最終処分場基準(平成29年10月1日施行)。
(5)その他
水銀等の貯蔵、水銀含有再生資源の管理するにあたり、水銀等を貯蔵する者や水銀含有再生資源を管理する者は、毎年6月30日までに主務大臣への定期的な報告が必要となりました。